カンボジアへの視察は3か月ぶりである。日本カンボジア交流協会という団体に便乗するかたちとなった訳だが、引率の山田理事長は、カンボジアが国を開いて数年が経った後、20年近くも前からカンボジアの人達の職業訓練、日本語会話の指導等、またカンボジア政府と協調しながらこの組織を発展させている。ご高齢にもかかわらず、そのバイタリティーと周囲への心遣いを目の当たりにして非常に驚かされた。

前回レポートの若者の素直さや、能力の優れた面とはまた違った顔について、また自力で到着した地方の状況についてもお伝えする。
ビジネスで接する人達、また若者をテーマに扱っておいて他人様に手配していただいたホテルについて語るのは恐縮であるが、前回ご紹介した規模の小さなホテルの“過剰なほどの親切な応対”とは真逆を行く対応を経験させていただいた。

プノンペン有数の老舗ホテルであった。ジネスマンや観光客が多くレセプション付近を行き交う。もちろんそんなホテルではホテルマンも常々多忙である。チェックインの時、通された部屋にやや難があるので階上の、可能であれば最上階に代えてくれる様お願いした。そのホテルマンは端末を操作し一所懸命さがしてくれていたが、ホテルオフィスから現れた上司らしき人物がそれを制止し、「上の階はあなたが予約した部屋とは違うクラスなので、部屋替えをご希望ならば追加料金をお支払いいただく。」と全く持って迷惑そうな口調で言った。
手配は我々が直に行ったわけでは無いので、可能な範囲で2階の部屋を選んだが、ホテルマンにおいてはあるまじき物言いであると思った。

また数日後、予てより興味のあった乗り合いバスによる地方旅行を計画し、まず移動のために
足の確保をと、若いフロントの女性に「コンポンチャムへ行く長距離バス会社をご存知ありませんか?」と聞くと、顎を上げて「チェックインしたいの?チェックアウトしたいの?」私のホテルマンとしての果たすべき仕事はそれだけよ、といったご様子の返答。さらに問いかけると、「それはベルキャプテンに聞いてください」と文字通りたらい回しにあった。こういうホテルなのだと諦め、どうにか自力でバス会社を探し当てた。これは「一流としてのプライドのはき違え」という後進国でよく陥りやすい現象で、一流は一流の仕事をすべき、では無く一流なのだからこのままの仕事をしていれば十分といった勘違いであろう。ホテルマン個々ということではなく、そのまま経営方針が反映されているのだ。

そうして我々はバスターミナルへ向かい、夕方頃には無事、目的地であるコンポンチャムへ到着した。
ホテルへ送ってもらったトゥクトゥク(タイの改造バイクのタクシー)ドライバーが、観光はどうかとしつこく誘ってきたが、まだその土地にどのようなものがあるかも知らない状態だったので断った。(これは失敗だった)そして、ホテルはまだ予約などしていない。なにしろその日の朝決めた小旅行である。

すると、小さなレセプションのうら若き女性は、「スタンダードの部屋は満室で、空室はVIPルームだけです」とのこと。VIPルームの料金は通常の倍くらい、おっさん二人で同宿すれば同じ値段である。部屋を見せてもらうと新築の部屋であり、そこそこ広いリビングのある良い部屋であるが、寝室がダブルベッドなのである。ここは少し考えて貰えればというところだが、ツインベッドルームはないか尋ねたところ、またフロントへ案内されて、聞いたところ用意できるそうだ。セミダブルとダブルのベッドのツインで申し分ない部屋である。ではこの部屋でOKと伝えると先ほどの女性が、「どちらの部屋にしますか?」と聞いてくる。
これにはズッコケた。「だ~から~」と突っ込みたいところであるが、彼女にしてみれば全く食い違いなどない当たり前の対応なのである。『素朴で親切、真面目な人達』だ。

次回へ続く。