昨年より政権掌握時点(いわゆるクーデター)より数回紹介している現政権の状況についての報告である。タイではそれ以前の数年間、莫大な資本力によるタクシン派勢力の言ってみれば「カネで政権を買い取る」時代が続き、その様な状態に辟易したエスタブリッシュメントの示唆を受けた軍隊で選挙無しの政権奪取が行われ、都会の知識層を中心に大歓迎される結果となった。

そして厳しい綱紀粛正が行政行為において進められると、公務員の収賄、あるいは手続の不備が発覚すれば即日更迭されるという取り締まりが現在も継続され、しかもエスカレートしている。この脅かしが効き過ぎたため、すっかり臆病になってしまった公務員は、当たり前に進めて来た業務をわざと滞らせるという本末転倒の状況となった。彼らにとってみれば、許認可さえ出さなければ何のリスクもないということである。

例えば法人登記から営業開始までには商務省登記局、管轄税務署、社会保険事務所、外国人常駐者が居る場合は更に出入国管理局、労働省の許認可が必要となるが、公表されている必要書類を完璧に作成しようとも、様々な追加書類を要求され、その要求に対応したいへんな苦労をして次の許認可申請に取り掛かると、すでに他省庁によって申請受理されている申請内容にまで突っ込みが入り門前払い、「フリダシにもどる」ことさえある。そもそも本来の意味での法治主義が成立していないお国柄である、お役人様が白を黒だと言えば「これは黒でございますか。仰せの通りで。」で済んでしまう側面がある。そのためこの事態にあっても苦情を申し立てる市民は皆無の様だ。

これがバンコク市内での手続きであればまだ損害が大きくないが、他県へ赴いての手続きとなると事態はさらに深刻である。ケチを付けられる度にバンコク、地方役所、顧客の間を右往左往。最初から規定通りに行っている管轄税務署と社会保険事務所の申告書上の差額について、それがお役人様ご本人の御無知からくるものであったと知ると、その申告方法採用の理由書??をクライアントさんに作成させろと申され、また長距離を往復し提出すると、その文面が短すぎるのでもっと文章の長いものを持って来い、とこれまたご無体なご要望をされるのである。地方のお役人様が作文の御添削までされるとは、何と至れり尽くせりの行政であろうか?

また、8月末このようなニュースの報道があった。トヨタモータータイランド社による製造・販売のハイブリッド車「プリウス」について、財務省関税局は、部品の現地調達率が基準に満たないとの理由から、完成車の輸入と見做しておよそ110億バーツ(約370億円)を追徴課税した。これに対してトヨタ側は「プリウスの生産は日タイ経済連携協定(EPA)の取り決めに従ったもの」と反論、そして税務裁判所に提訴した。これは現在も法廷で争っており、プリウスの生産自体は9月末で終了となった。この様なトラブルは以前より見られたことであるが、今や当地の中心産業である自動車業界、そのトップ企業として業界を牽引する者に対してこの扱いはどうなのかという政策判断は無いものであろうか。

現軍事政権下の経済政策の成果は、これらを考え合わせると推して知るべしである。各関係政府機関が発表するGDP成長率見通しは、下方修正の連続である。もちろん‶正しい行政手続き″は民主国家の基本である。しかしその行き過ぎが民業への圧迫・経済発展の障害となっていることに是非気付いて欲しいものだ。