さて今回は、日系企業としての投資環境、投資規制、その手続き手順と、カンボジア人労働者のタイ派遣に関しての調査を目的とした視察である。

投資規制は全くない、といって良い。「どなたからの投資も大歓迎」ということだ。進出形態としては有限責任会社・パートナーシップの選択があるが、どちらも現地法人であるから過半数の議決権をクメール(カンボジア)国籍の自然人か法人が保有するのが条件だ。一方外国企業としては駐在員事務所・支店・子会社の選択肢があり、いずれも外資100%での設立が可能である。

外国人投資に対する規制もあることはある。が、①向精神剤および非合法薬②国際規約・世界保健機関により禁止される毒性化学品・農業用除虫・殺虫剤③大量廃棄物を持ち込む電力事業④森林法により禁止されている森林開拓と、環境汚染や公序良俗に関する規制のみであるから、通常我々が行う事業には全く影響がない。ただし土地の所有だけは許されていない(コンドミニアムは購入できる)。

これは企業進出の前提となる制度であり、我々の勝負どころは現実にカンボジアの官公庁はどうなっているのか?カンボジア人は外国人をどの様に受け入れてくれるのか?である。進出企業をサポートする立場としては、官公庁手続きや業務環境を把握することが第一歩なのだ。先ずはカンボジアでの仕事入門編ということで、JETROさん、日本人商工会さんを訪問させていただき概略をお伺いしたが、これは型どおりの入口の話。我々がこの国で業務を開始する時の相手はあくまでも現地の人々なのだ。間に日本人や日本の団体を絡めては実態を把握できない。試しに宿泊しているホテルのレセプションで、法人設立登記を行う官庁と、税務登録を行う税務署の場所を聞いてみる。通常彼らの仕事上ほぼご縁の無い要求をしてみて、現地の方がどの様に対応してくれるのか、これを見極めるのが我々の仕事だ。進出企業を実際に支えてくれるのはこの人達なのだから。

結果的に我々のリクエストに対して驚くほど親切に対応してくれた。一介のホテルマンが官庁の仕組みを理解しているはずは無いのだが、一つ一つ丁寧にネットで検索し、電話で問い合わせて回答してくれる。それも「たぶんここだと思うけれども確信は無いし、役人はアポを取

っていかないと話を聞くのは難しいかも知れません」などと気遣いも細やかな対応である。おまけに携帯プリペイドカードにチャージする方法を聞くと、その人は自ら近所まで出向いて支払い、セッティングまでしてくれた。

さて、情報が確かなのかどうかわからないがとにかく役所へ出向く。税務署(高層ビル全体がそうだというので、おそらく国税局)では、ここでは税務登録を受けつけておらず、裏手のビルだと案内され行ってみると、担当者を探しに行っていただいたきり、誰も出てこなかった。冷静に考えれば、初めて訪れた国の国税局や税務署の本署に現地の方を伴わずいきなりづかづかと乗り込む失礼な外国人はまずいないに違いない。ここは一旦諦めて、法人設立登記を受け付けるらしいお役所へと移動した。着いてみるとその建物は商業省(日本の経産省)本省であった。とにかくずんずん入って行き、そこここで法人登記の部署はどこかと聞きながら、法人の名称予約を受け付けるというカウンターに行き着いた。この若い役人さんに設立の手順を伺うと、丁寧に説明してくれた。また「名称予約の後の手続きについては他の部署が行うのでここに申請書は無いが、メールアドレスをいただければ後で送ります」とのことでこれも完璧な対応であった。そして案内を受けた方向へと移動しその手続き部署を探してみたのだが、どうやら見当はずれの様で、さらに管轄の違う部屋へ乗り込んでしまったのだが、またその年配の役人様が、他部署に問い合わせてくれた上で、丁寧にご説明いただいたのである。また上記申請書は、数日後メールで送られて来た。どうも我々には、タイのお役所の応対が基準として刷り込まれている様で、普通に親切にされると大げさに感激してしまう病に侵されている様だ。

約30年前のこと、同じ国民による大虐殺が行われ、当時の知識人は根こそぎ犠牲になった。その結果、現在この国の仕事を支えているのは圧倒的に若者ばかりである。また当時国外に亡命した人々の多くも、祖国が民主化された20年前から帰国し、この国の発展に大きく貢献しているのだと思う。この国の将来を担うこの真摯で前向きな若者たちには大いに期待して良いと思う。皆の明るく快活な表情がそれを物語っている。そう感じた4日間だった。