2015年1月1日付投資委員会(BOI)の新奨励策が施行された。その内容がタイ・ビジネス関係者の間で話題になっている。公式発表の政策内容詳細についてはJETROを始め様々なWEBサイトで発表されているのでそちらをご参照いただきたい。

奨励対象の事業を見ると、バイオ技術、ナノ技術、有機農業、リサイクル事業、ハイブリット技術、環境、クラウド、省エネルギーと、世界の経済潮流に沿った業種があげられている。

元より自国企業が技術開発し蓄積するのとは違い、専ら海外からの直接投資を招き成長を画するという方法がタイ経済の成長モデルであって、その牽引役を果たすのが当委員会の義務である。従ってこれら一見華やかな先端技術に関する知識が同国人にあまり無いのは自明の理である。しかしながら投資委員会の奨励事業審査を行うのはこれも当然のことながら当地の審査官、それもほぼビジネス経験のないエリート役人様である。これがどういう事態を引き起こすか?ここが今回のテーマである。

例えば省エネ事業に於いて、このカテゴリーのBOI(タイ投資委員会)の奨励認可申請には、前提としてエネルギー省の許可が必要であると公表されている。そこでエネルギー省を訪ねると「担当者」は、自分は詳しくないのでBOIに聞いてくれと云う。「いいえ、BOIの側が先ずエネルギー省様の許可を取得してからでないと申請を受け付けないというルールがあるもので・・・」というと、「では私の上司に聞いてから連絡する」という回答の後、何の連絡も無いまま時間が経過してゆく、ということになる。これは実話である。

また従来の製造業事業の場合にも、こういう経験がある。お役人様は「こんなNC(数値制御)旋盤を使用した量産ならボタンを押すだけで切削品が出てくるのだから、機械設備を導入すれば誰でもできるだろう」従って奨励プロジェクトに値しないと失礼な事を仰る。これでは面談を受け、説明しようと出向いた企業の側が腹を立ててしまう。もしお役人様の云うことが正しいのであるならば、資本力のあるローカル企業がどんどん安く仕事を請け負っていて然るべきであろう。しかし現実には日系企業がその蓄積した技術で品質管理、コスト管理を行い、メーカー、あるいは業界を守っている現実を、ビジネスに関わっている大抵の者には想像できる。メーカーの側にしても、長い間取引をしてきた日系企業だからというだけで発注する様な時代では最早ない。実際に、長期間同様の部品を製造販売していれば、その価格に対しメーカーから値引要請が繰り返され2割、3割とコストダウンしていかなければ取引の継続も覚束ないというのが現在の市場環境である。

新政策で削除されたカテゴリーもある。その一つが「コール・センター」。コール・センターと言っても、苦情受付であったり、テレビ・ショッピングの注文受付、またはIT機器や通信機器他のサポート係と様々だ。これもかつて、BOIの想定する業務内容が狭すぎ、つまりお役人様の知識・想像の範囲に当てはまらないものはすべて否定される。しかしこちらもビジネスであるから、あれこれ申請内容を修正、または申請者を別人に交代したりと、手を変え品を変え、四苦八苦して認可を取得したことがある。

このカテゴリーは結果的に奨励実績が上がらなかった為、今回の新政策から外された。元よりこの様な業務は日本語の達者な現地スタッフが豊富な、中国の独壇場では無かったかと想像する。実際数社がコールセンターを運営しているが、働いているオペレーターのほぼ全員が日本人である。偶然昨年10月に、この事業を計画している企業からの相談があったので、そのクライアントさんに「年が明ければこのカテゴリー自体が無くなってしまいますから、年内に申請してはどうでしょうかということで、急ぎ申請書を作成、トライした。しかしその結果はまたもや「この業種はBOIの想定しているコール・センターに非ず」と一蹴されてしまった。おそらく事業内容はともかく、年の瀬になって駆け込み申請が殺到したので、もう面倒になっていたのではないか。結局この案件は時間切れということになった。