去る5月末、陸軍総司令官によるクーデター、そして司令官自身による暫定政権が樹立され、組閣が行われた。そして騒乱に辟易していた多くの市民が歓迎した。政治騒動に明け暮れた半年間に於ける景気の悪化、行政の停滞、集票の為に前政権が執ったバラまき政策が原因で遺された負の遺産からの脱却、これらの問題に対する新暫定政権の姿勢は、景気回復と共に当地の各方面(特に都市部の有識層市民)から高く評価されている。

前政権のバラ撒き政策

  • 初めて購入した車に対する自動車税大幅減税―駆け込み需要が去った後自動車売り上げは激減した。購入後5年間の譲渡は禁止されているので、この影響は5年後まで続く。
  • 大票田である農民に対して、市場価格を大きく上回るコメの買取―財政が傾き代金は不払いとなり再びデモ騒動となる寸前に新政権が支払を確約し解散させて、間もなく支払も行われた。財政に大損害を与えた罪により前首相が刑事訴追される可能性がある。③全国の小中学生に対するモバイル・タブレットの無料配布。一部で実施されたのだが、学生はゲーム機としてしか使用しない、また親が取り上げて現金化してしまうケースが続出。これらの状況に軌道修正を加えるべく、現政権からは次々と綱紀粛正政策が発せられた。などと、良いこと尽くめであるにはあるのだが、既存の日系企業および進出企業のサポートを行う我々にとり有り難くない波も押し寄せて来た。綱紀粛正であるから、官公庁職員による収賄行為には厳罰を以て臨む、のはもちろん本筋である。しかし手続の現場で、あらゆる不備を指摘して(または無理矢理のこじつけで不備を捻りだし)手間をかけさせるというのは如何なものだろうか?我々が現場で面食らう様なケースが相次いでいる。

1 法人設立登記および税務登録 

登記上の住所について、所有者から間接的に物件を賃貸し営業を行う、あるいは仮事務所として一時的に小さなスペースを賃貸し稼働させる、というケースはよくあることだ。従来は賃貸契約書の代わりに施設使用許可状を所有者が発行することで登記が認められていたが、これが通らない。さらに又借りの賃貸契約書を作成し、賃貸料の請求も起こさなければならない。

法人登記後、管轄税務署に於いて税務登録を行うのだが、すでに商業省登記局に於いて申請受理された内容に対し、例えば社印のデザインについて税務官が否定的なことを云う。これは管轄違いであるし、すでに受理した登記局に対し直接意見すべきと撥ね付ける。

2 投資委員会奨励事業

奨励を受けているプロジェクトに関し、その後申請通りの事業が行われているかを厳しくに調査する。今現在ITプロジェクトとして過去に認可を受けた多くの日系企業が調査をされている。本来の奨励事業はソフトウェア開発に限定されたものだが、奨励のための審査は甘く、奨励を受けたプロジェクトの多くは現地での開発でなく、元より主事業は既存ソフトのカスタマイズ販売、メンテナンスなのである。奨励委員会の業績は奨励を与えた直接投資総額であり、実績を残すため半ばは承知の上で当委員会が奨励を乱発してきたのである。それを今更、手の平を返したように開発の実績を示すエビデンスを提出しろと真顔で要求する。しかしこちらもビジネスの一環であり、クライアントさんの行っている事業を行政により中止されるような事態はあり得ない。そこでクライアントさんと共に画策し、小さな実績を大きく見せる様データ作りに関しアドバイスし、担当官には「お奉行様、あっしらもお達しの通り商いが出来る様精進してめいりやしたが、何と申しましてもこのご時世、これと決めた型通りの商売ではおまんまの食い上げ、これではおっかあやせがれ共も腹を空かせて泣くばかりでごぜいやす。ここはお奉行様のご慈悲をもって、なにとぞ今しばらくのご猶予を~。」と額をお白洲の砂にこすりつけ願い乞う毎日である。溜息が出る。しかしそれでも万が一委員会の奨励が取り消される事態になったとしても、大事業なら商業省の「外国人事業許可」を申請するなり、小規模の法人であれば現地側出資のリスクを躱すテクニックを駆使し(水面下のお話です)現地法人化するなり、運営継続の方法はいくらでもある。