1月4日付のバンコクポスト(代表的英字全国紙2社のうち1社)によれば、タイ歳入省は、中小企業に対する気前のよい免税政策を公布した。
内容は、Single Financial Statementを採用実施して、歳入局にて登録した中小企業に対し、2年間の税務調査および法人税支払いの免除を実施する、というもの。
その目的は、主にローカル企業を中心に行われている二重帳簿(社内管理用帳簿と納税用ファイル作成)を一掃し、徴税基盤を拡大すること、とされている。
またその記事では更に関係者の声明を掲載している。

「対象企業は歳入局のウェブサイト上にて、1月15日より3月15日の間、登録を行うことができる。当局者は、源泉徴収税や付加価値税の未還付分につき無効な税領収証や不正還付請求の調査のみ実施する。サインアップを行った企業は、彼らの事業内容の実態を反映した財務諸表を作成する義務が課され、当企業は如何なる脱税行為も行わず、適切な税処理および納税を行う義務を負う」(これまでも同様かと思うが・・・)
また「500万バーツを超えない資本金の企業、および2015会計年度において年間の売上高3,000万バーツを超えない企業がサインアップを行えば、2年間の法人税免除となる」
記事を読み始めた私は、このSingle Financial Statementの意味を掴み兼ねていた。何か私の知らない種類の、特殊な財務諸表形式があるのだろうかと考え込んだ。もちろん辞書の用例にも出ていない言葉だ。
読み進むと、two financial statementの説明があって、「正しい帳簿を社内で使用し、別のファイルを納税に使用する」。なるほど、二重帳簿の対語だったのだ。
当政策が額面通り実施されると、現政権の重要課題である「綱紀粛正」に資するという考え方を理解できないでもない。最低でも正しい会計税務処理を目的として業務を行っている我々には朗報だ。登録さえ行えばクライアント様も無税、我々は法人所得税の税計算が必要無くなる。詳細を云えば、繰越欠損金の記載、それがフラットに繰り越されるのは当然であるが、繰越期限はどうなるのだろうか?と要らない杞憂を重ねるのが、すでに職業病なのだろう。

しかし、少々考えれてみれば分かることだが、大前提として行政を全く信用しない、納税意識が最低のこの国の一定割合を占める納税者が、この政策を信用するのだろうか。一銭も納税をしたことの無い企業が2年間正しい会計税務処理を行い(このためには当然金銭的、時間的コストがかかる)、免税の恩恵を受け、3年後からも真面目に税務処理をし、正しい納税をするのだろうか?やはりあり得ないのではないか。今まで通り脱税を続ければ、税務調査で発覚しない限り納税額はゼロなのだ。
私自身も当初英文を読み違え、「登録させておいて厳しく調査を行い、さらに追徴課税を絞り取るための政策ではないのか?」と主張し我事務所のマネージャーに否定された。
いずれにしても、大枠で実施発表し手続詳細で骨抜きにすることのよくあるお国柄、この登録に際しリスクの無い我々とクライアントさんは当然サインアップするけれども、実施までの動きから目を離してはならないと思う。

その後の経過をウォッチしていたところ、案の定当局から免税範囲が示され、メリットは限定的なものとなった。免税となるのは300,000バーツまでの課税対象利益(しかもサインアップしなくとも同じ)であって、それ以上は5%~10%の減税ということになった。相変わらず信用ならない閣議決定・・・

2016年1月公布免税政策概要
*対象企業
 2015年12月31日までに設立した企業
 払込済資本金が500万バーツを超えない企業
 年間売上高が3,000万バーツを超えない企業