この国で経営管理を行ってみると、従業員の不正には大きなものから些細なものまで、実に様々なケースに出会う。
本当によくある話は、購買の際に業者から支払われるキックバックである。まるで当たり前に存在するシステムの様に行われている。会社や工場では事務消耗品、備品、飲食店では生鮮品・食材等、少額のケースが多いのだが、当然会社規模に応じ大金になってしまう場合もある。これが従業員2,000人の工場で、しかも年間出荷する500コンテナの輸送費絡みとなれば、告げ口するのも大げさではなく命懸けだ。また破棄品の金属スクラップ売価のごまかしもよく聞く話だ。スクラップ業者が詳細記録を作成している筈もない。

酷い話では商品そのものが流出するケースもある。かつて日本の有名玩具メーカーの工場敷地沿いに、毎夜ピックアップ・トラックが横付けになり、夜中に夜勤の社員が敷地内から商品をポンポンと放り投げ、荷台を満載にして走り去るという目撃談を聞いた。警備員がグルになるというのもよくあるパターンだ。
手の込んだ犯罪もまれに発生する。ゼネコンの経理事務員がサブコンと結託し、現場へ支払われる建築費用が何割も上乗せされた金額で決済され、しかも帳票上は全く矛盾の出ない様細工されていた、という見事(失礼!)な知能犯が1,000万円以上も横領していた事件を経験した。しかもこの横領犯は警察の取り調べであっさり罪を認めた。そこまでは良かったのだが、直後に財力にものを言わせ大枚の保釈金を支払い自由の身になった。そして公判の日には現れず、この事件はこれで打ち切り・・・とこの国の司法行政には大きな矛盾があるので、犯罪被害により失われた財産は絶対に帰ってこない。

また巧みな日本語を操り、日系企業の中間管理職を転々としている人物には最大の注意を払うべきだ。赴任したての日本人管理職の手足として能力をひけらかし信用させ。あれやこれやの手配を完璧にこなしながら、仮払金として会社から引き出し、その精算は引きのばしたまま、ついに行き詰った時点で、すべて持ってドロン、この手に味を占めて繰り返し罪を犯す輩もいる。

また製造業の購買部員幹部が自ら会社を立ち上げ、購買物の殆どを商社として納入していた、これでは踏んだり蹴ったりである。神も仏も無い。
これらの不正が長期間続いた例は少ない。もちろん発覚したからこそ聞こえてきた訳だが、売上や原価の推移に気を配れば、不自然さは自ずと見えてくる筈であるし、必ずどこかに綻びはある。

対策は、如何に早期発見するかにかかっている。日常業務だけでも大変な管理職業務だが、価格の確認だけではなく、要所の社員とのコミュニケーションが大切だ。大きな金額を扱うサプライヤーに対しては、挨拶と称して相手方に出向く、等々(拒否されれば相当怪しい)の牽制も行った方が良い。切削工場のスクラップ引き渡しの際は、抜き打ちで立ち会うべきだろう。すべての問題は現場で発生しているのだから。

では問題が発覚した場合の対処はどうするべきか。日本人の気質として「穏便に済ませたい」という言葉が必ず出てくるが(もちろんこの場合、親会社に管理不行き届きを悟られたくないという思いが先に立ってしまうのも当然のこと)、それでは管理者が不正を公認したことになり、第二第三の不正行為者を生むことにつながるだろう。社員どうしの口コミは想像している数十倍の速さだと認識した方が良い。
また多くの場合、周囲の社員はトラブルに関わることを避けようとする傾向にあるので、基本的に知らぬ存ぜぬの態度を取るだろう。不正者と対峙する場合には弁護士立会いの下に法的なアドバイスを受けつつ進めるのが良策だ。元より管理職者に対抗するのを覚悟の上でおこなった不正なのであるから、その管理者自身の前でも当事者は、その場しのぎの誠意の無い言い訳に終始する。

その結果、示談では解決不可能と判断した場合、一旦刑事事件として警察へ訴え、警察官の事情聴取を受けさせる。当然刑事起訴も視野に入れてのことだが、起訴してしまえば返済請求ができなくなってしまうので、警察官立会いで示談という方法が良い。これは強制力としての一定の効果がある。