近年、タイ国内の工場における労働者不足が深刻な段階を迎えているということが常に話題となっている。統計によると、ベビーブーム世代がすでに35~45歳に達し、工場労働力としては壮年であって、新規の労働力には適していない。また地方に於いて農業収入が改善されたことから、労働者の収入との格差が是正されたこと、等々が主因と云われている。前者について、現地事情をあずかり知らぬ外国人には理解しにくいことだが、まだまだ当地の平均寿命は短く、中高年で単純労働に就くことは考えられない。子の側の立場としては自らが親の生活を支えるということは全く当然の義務であるという習慣も影響している。まだ40代の父母(我々の感覚としては一番の働き盛り)を養うため、学歴のない娘さんや息子さんたちがバンコクで昼夜を問わず働く、という姿はある意味日本の社会が失った美談にも聞こえるのだが、これがタイの身分制社会、悪く言えば貧乏の連鎖を固定化している大きな要因であるのも現実なのだ。話が逸れた。1990年台前半、シンガポールにおいては20万人の外国人労働者に労働許可を発行し、マレーシアは47万人の不法労働者を合法化し、台湾は12万人に対し確定条件の雇用契約書を発行した。それら諸外国をよそ目に、タイは地勢上の状況もあり陸路にて入国してくる近隣国、ミャンマー、ラオス、カンボジアの不法労働者を黙認し利用してきた。

それ以降、政府はクォーター制(人数と期間に制限を設け各国に割り当て、正規労働者を受け入れる制度)を採用し、順次このクォーター枠を拡大することで対応してきた。(ただしその何倍もの不法就労者も生まれた)そして現在、55万のミャンマー人、15万のカンボジア人、5~6万のラオス人が合法的に就労している。ミャンマー労働者の大部分はタイ西部での水産物加工または漁業関連業務に就き、カンボジア労働者の多くは東部のラバー・ウッドや再生ボード(ラバーウッドの廃材をチップ加工しプレスしたもの)を原材料とした家具工場の労働者、あるいはゴム・プランテーションでのゴム採集労働に就いている。またバンコクでも建築現場や内装現場でのカンボジア人労働者や、ミャンマー人ウェイトレスを日常的に見かける様になった。

特にミャンマー人の評判は概して非常に高評価されており、「タイの地方から雇用したウェイトレスさんの教育は全く苦労ばかりだったが、ミャンマー人女性を雇用始めてから本当に呑み込みが早くしかも勤勉で、本当にありがたい」とはある和食レストラン経営者の話である。いずれの人たちもタイの通貨1バーツの価値が格段に高い国から来ているのは同様だが、雇用者からの評判は、ミャンマー人の方が確実に良い様だ。ラオスの人たちについては、元より人口の少ない国なので、出稼ぎ者も少くあまりお目にかからない。
これらの国の人々を将来のタイにおける工業の担い手とするのならば、政策として彼らの就業能力を上げるための研修を行うべきであると私は考えているが、今現在までその様な計画は無く、すべて民間任せの状態である。私は決してすべての身分制度を否定するものでは無いが、それがこの国に実存する古典的身分制度の、更なる底辺階層を形成するようなことのないことを願ってやまない。私自身にしても、セーフティー・ネット政策の無いこの国に住む外国人の一人なのである。