バンコクの医療環境について報告することにしよう。

病院の種別として、最高の施設が完備された一流病院、その他の私立病院、公立病院や軍・警察等の管轄する病院、クリニックと4種がある。クリニック以外の総合病院は、何れも年中無休、24時間オープンの救急病院である。

第一の一流病院、我々に特にご縁のあるのはサミティベート病院、バムルンラート病院、バンコク病院、ラマ9世病院の4大マンモス病院である。設備は何れの施設も最先端の機器が揃っており、日本の大学病院にも引けを取らない。そもそも最先端医療機器の導入数で言えば、日本が世界のトップクラスではない。どの病院を選んでも日米欧で医師資格を取得した優秀医を揃え、また多言語の通訳もスタンバイしている。邦人駐在員は殆ど、日本で長期の旅行傷害保険や駐在員保険に加入しており、キャッシュレスでこれらの病院の診療を受けることができる。因みに私の内科主治医は、バンコク病院のジャパン・メディカル・センターの医長で、京都大学を主席で学位取得されたレヌ先生という方である。当日本人向け医療センターには、日卒医と呼ばれる、10名程の日本医師免許を取得された先生が10名ほど在籍する。

医療設備だけでは無い。こうの様な高級病院にはスターバックス、マクドナルド、本格的な和食レストラン、何とインターナショナルなメニューのルームサービスまで、もう体に良いのか悪いのか混乱するほどの充実ぶりである。随分以前のことになるが、胃潰瘍で入院中の知り合いが、すべて医療保険精算だからと神戸牛ステーキを病室で食しており、これには閉口した。

入院病棟は最低でも個室、費用に応じ様々なVIPルームも完備されており、私自身も5回入院させていただいたことがあるが、検温、投薬、検診、食事等々繁茂に看護師さんが訪れ正に至れり尽くせりなのだ。原因がほとんど過労であると認識していながら、自分の意志で入院させていただいたこともある。まあこの様な対応を批判する方々からは「医は算術」などと陰口を聞く。

自国ではこの様な設備を望めない周辺のアジア諸国、中東の各地から医療目的で渡航して来る富裕層も多く、タイの医療産業はメディカル・ツアーの目的地としてすでに大成功を収めている。過剰なサービスとの批判もあろうが、利用する我々にとっては心強い味方である。過剰と言って思い出すのは、我が愚息が2歳児で入院した際、毎朝読売新聞が病室に届き驚いた。20年近く前から、当地の医療サービスは高水準であったということである。まあコストのかけ方と医療レベルがそのまま結びつくかどうかはともかく。

第二の、その他私立病院は、もちろんタイの庶民の診療を行う大切な機関であるが、特に法人の被雇用者に対し強制加入を義務付けられている社会保険庁の公的社会保険診療を行う施設として重要な役割を受け持っている。もちろん第一のグループと同等という訳ではないが、皆、総合病院かつ緊急病院として機能している。

第三の公立病院は、安価という意味でこれも庶民の、特に地方居住者にとっては重要な機関だ。予算の制限から設備という意味では劣る。また入院病棟も相部屋というか大部屋が中心となっている。

最後のクリニックだが、医療機械は何もなし、風邪や腹痛等、日常の軽い症状の診察・投薬を行い、手に負えないケースの場合は総合病院での診療を勧める、街中で多く開業されているいわゆる町医者で、これも遠くの病院へ行くのが大変な患者さんや、多忙な患者さんに重宝されている。また病院を好まないので近所のクリニックで済ます、という声も聞く。

以上がタイの医療事情である。